2016年4月28日木曜日

ストリートスマートで負けた(下)

昨日の続きです。登場人物は変わらず。


かぼちゃ                      :親会社法務部 部長 法学修士  戦線離脱
じゃがいも                    :当社法務部 部長 法学修士 戦線離脱
ががーりん                   :弁護士。ががーりん法律事務所所長。きじの代理人。
きじ                             :弁護士。ががーりん法律事務所所属。
おらうーたん                 :ごりらの上司
ごりら                          :私


プロジェクトは一向に開始されないにもかかわらず、ばなな3万本を支払ったごりらの会社。このころから、ががーりん所長になかなか連絡がとれなくなる。海外出張が増えたとが理由らしいが、本当のところはわからない。



きじ弁護士との連絡はががーりん弁護士から相変わらず禁止されており、ががーりん所長と連絡が取れないことは、プロジェクトが止まることを意味していた。1ヶ月、そして2ヶ月が、何の進展もないまま過ぎた。



ついに、ばなな支払い後3ヶ月目にして、やっとががーりん所長とアポイントの約束が取れた。ごりらの上司のおらうーたんは、出張中で交渉の場に参加することはできなかった。きじ弁護士も、「親戚に不幸」があったらしく、不在だった。ががーりん所長とごりらの1対1の交渉である。


プロジェクト開始に必要な基本契約書のある章について、ががーりん所長は、文章を修正することを一歩も譲らなかった。これは、不確実なことの多いこの国ではどうしても必要な文言で、きじ弁護士の家族を安心させるためには必要であるとのことだ。また、この一章はこの国の契約書の雛形では一般的で、後々でこれを悪用するつもりはない、とも付け加えた。ががーりん所長は、何度も表現を変えて、上記の内容を繰り返した。後で別の法律事務所にこの内容が適正かどうか聞くと、他の契約書からコピペしたような文言で、状況に合致していないし、この場面で使う文章ではない、と回答をもらった。やはり、ががーりん所長は曲者だった。


この内容を受け入れてしまうと、うちの会社にとっては、ばなな4万本の機会損失が発生する。ばななを直接支払うわけではないが、本来得られるべきばなな4万本を失うことになるのだ。



2時間ほど交渉して、議論が並行線のままだと感じたごりらは、休憩を取ろうとががーりん所長に提案し、受け入れられた。外では滝のように雨が降っていた。遅々として進まない交渉を天があざ笑っているようでもあった。ごりらは、上司のおらうーたんに控え室から電話をし経緯を報告した。おらうーたんは、そこまで先方が粘るのであれば、何か事情があるのだろう、と、ばなな4万本を会社が負担し、契約書もそのままでいい、と決断した。


ごりらは納得いかなかった。これまで英語の話せないおらーうたんの代わりに、直接ががーりん所長と対峙し、この抜け目のない策士に完敗を宣言するのが癪だったというのもあるが、直接的・間接的に会社がどれだけダメージをうけ、リスクにさらされるかを考えると、おいそれとそのまま従うわけにはいかなかった。しかしおらうーたんは、責任は俺が持つ、と言い、さらに、いざとなれば、ばななを会社に補填する覚悟もあるとも言った。


部屋に戻り、30分ほど交渉して、ががーりん所長が譲らないことを確認したごりらは、おらうーたんの決断をががーりん所長に伝えた。ががーりん所長は、ごりらの会社が妥協してくれたことに対するお礼と、いかにこの文章を維持するのが大切かを繰り返し述べた。


結局、ごりらがががーりん法律事務所を出たのは、到着してから4時間経ってからだった。外の雨は止んでいた。オリオン座がいつもより輝いて見えたが、ごりらの心は晴れないままだった。


その後、おらうーたんの決死の覚悟による妥協によって、契約書締結がスムーズに行ったかというと、そうでもなかった。それからさらに1ヶ月経って、ががーりん所長は、また別の文章が気に入らないと言い出した。きじ弁護士の家族が心配している、と。


おらうーたんも、さすがにこれには腹が立った。ががーりん事務所は世界的な法律事務所と提携しているため、側面からの解決を図ったものの、これも結局、ごりら側が折れることになる。2ヶ月が無為に経過した。その間、請求書がさらに2枚、3枚と届き、ごりらの会社は支払った。


しかしついに、契約締結をする日がやってきた。しかし、最後の最後まで、この策士にはしてやられた。役所で登記手続きを行う必要があり、その場にきじ弁護士が同席することが必要だった。本当かどうか怪しいところだが、きじ弁護士のスケジュールがつかず、2週間ほどスケジュールがあと倒しになった。やっと指定された日に役所に行くと、きじ弁護士はいない。そして、ががーりん所長は、言ってのけた。


「資料も見届け人も足りない。そのために役所の方が残業をすることになるため、費用を負担してほしい。3000ばななくらいかな。」


ごりらがおらうーたんの立場なら、席を蹴って部屋を出て行ったろう。結局きじ弁護士抜きで登記手続きを行うのであれば、この2週間は何だったんだ? また、コンサルティング費用を請求するのであれば、この場で資料が不足していると指摘されるのは、ががーりん事務所の失態ではないか。それをどうしてうちの会社が支払わなければならないんだ? この場所まで来れば、絶対に断れないと思って言っていると思っているのだろうが、甘く見てもらっては困る。また、ここで折れたら、味をしめたががーりん法律事務所は、他の日系企業も同じ手口で騙されると思う。


結局、このプロジェクトを最初からやり直す覚悟と、このたかり屋の最後の小さな要求を飲む金銭的被害を天秤にかけ、3000ばななをごりらの会社は払うことになった。ごりらがおらうーたんの立場でも、前者の選択肢を取ることは難しかったと思う。ごりらはおらうーたんを責めることはできなかった。ごりらの会社がががーりん法律事務所に支払ったばななと、本来ががーりん法律事務所が負担すべきばななを負担した分は、合計で10万ばななを超える。


10万ばななの授業料が、下記だ。文章にすると陳腐だが、血肉となって経験したことなので、なかなか忘れることはないだろう。


教訓1: 代理人とだけ交渉しない。本人の同席を定期的に依頼し、代理人の発言の裏を取る。
教訓2: 請求書が来たからといって、支払わない。根拠の無いことに支払うと、次が延々と来る。
教訓3: 大きなばななが動く取引は、取引先の評判を自分で裏取りする。誰かに任せない。
教訓4: 常に代替案を並行させておく。選択肢が一つだけだと、相手はつけ込んでくる。
教訓5: 権威は当てにならない。弁護士だから明朗な請求書を出すとは限らない。
教訓6: 一人で戦わない。もてる経営資源は有効活用する。
教訓7: 支払いはなるべく役務の提供が完了してからにする。
教訓8:相手の失態は早めに大げさに指摘し、有利な条件を掴み取る。
教訓9:正直に状況を話すことが、常に相手の信頼を勝ち取ることには繋がらない。
教訓10:人当たりのよい人間が、常にビジネス的にWINWINを目指しているとは限らない。


このエントリを呼んだすべての人が、「途上国ビジネスだったら、こんなの当たり前じゃん」と思える日が来ることを祈ります。





(2016年6月5日追記)
秘密保持契約を最初に締結すればよかったと気づきました。そうすれば、きじ弁護士が家族に相談したとわかった時点でががーりん法律事務所との交渉を辞める理由ができましたし、もし交渉を継続するにしてもこちらに有利な条件で交渉を続けることができたはずです。







今日のインプット

なし

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